白紙の日記/御飯できた代
 
八重子の部屋は、もう白い壁を失ってしまった。薄暗い、闇色か、灰色か、炎の色。もう、そうなってしまったのだ。もう、白い壁は、そこにない。

「ぜんぜんわからない」

 骸骨が、しゃべる。舌の無いはずの、白骨が芳郎に言う。

「わからずやだ、お前は」
 疲労の呼吸をして、芳郎は八重子を責めた。
「兄さんだって、全然わかっていない」
八重子は立ち上がった。藍色のワンピースから覗く白い膝小僧が近づく。立ち上がっても、絵画は絵画のままだった。芳郎を見ていた瞳は、いつのまにか蝋燭に向いていて、膝は机で隠れた。しゃがみ込んで唇を炎に近づけると、再び頬が炎に染まった。ふっくらと肉づいた妹を見て、
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