白紙の日記/御飯できた代
 
て、芳郎は安心した。温かい、そう思った。

 フッ、と視界が暗くなる。

「わたしよく夢をみるの。真っ白な世界で、私一人だけがいる。そんな夢。誰も周りにいないの。ただ目の前に、時計があって――。デジタルよ、アナログじゃない。それが、一秒一秒、ゼロに近づいていくの。わたしはこれがゼロになってしまったら、この世界が終わるんだって、なぜかしっているの。すごく悲しくて、不安で、叫びたくなるけど、声が出ないの。

 だから、嫌なの。白紙を見ると、未来がないみたいで」


 暗闇が、そう言った。
 芳郎は目をつむって、両手で顔を覆った。温度はあるのに、そこにあるものは見えない。膝にある重みに、日記の存在を確めた。そこにある、僕の9年10か月。欠かさず書いた、記憶の記録。
 だんだん、目が慣れて、暗闇に輪郭が浮かんだ。横長の長方形には、あるはずの文字が一つも見えなかった。闇に溶けてしまった。全部、白紙になってしまった。
 芳郎はまた目をつぶって、もう目を開けなかった。
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