白紙の日記/御飯できた代
 
郎は分厚い日記帳のページを荒々しくめくった。少し黄ばんだ紙は悲鳴をあげながら、左から右へ場所を移す。その大半には青や、黒のインクがびっしりと並んでいた。
 しかし、終りが近くなると、読み取ることのできない、一色――黒とか、赤とかで、ページが埋まっていた。その様子をなんとも不本意そうな顔で見つめるのは他でもない芳郎だ。
 「あのね、八重子、日記帳っていうのはね、わかるかい、記憶の記録なんだ。記憶っていうのは、人間の脳の中にある、それだ。僕たちは、ちょっと、というか、たいそう馬鹿な生き物だから、今日こんな風にお前と話していることも脳のどこかにしまい忘れてしまうんだ。だから、ちゃんと取り出せるように
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