ある時友達が欲しいなら、と言われた/すみたに
 
た手が、ナイフで、丁寧に剥いている。
  皮と実の間で滲む、嗅いだこともない甘さが
  くどくどしく、痺れるような、
  そして、
  それは息遣いの耳障りな、鼻歌に変わった。  
  わたしの手がおかれた黒いテーブルに、飛び散った水滴。
  狂乱している金魚が、鉢のなかで鰓を解放する。
  つまらない、布団の中では、
  ああして眠りとは違う、冷やかな喉のいがらを味わっている。

  その朝方わたしは臭かった。
  人混みに身を曝せなくて、電車はやめて歩いていたが、
  やがて疲れたわたしは、重心を捉えきれない足の運動に任せた。
  道端、零れたジュースでべとついた、ベ
[次のページ]
戻る   Point(0)