(批評祭参加作品)観察することば/石川和広
いくのが今の現状だから、そこから「渡世」という、とても当たり前な生活のやり方を、つまり、生きていくのには、金が必要で、それを手に入れるためには今のところ「世間」を相手に様々な関係の網の目について、考えくぐっていかざるをえない。
そういう時、大学の職を辞して、民間の新聞に小説を書き始めた夏目漱石が、生きる困難さの実感として、非常に虚構的な小説「草枕」に、
兎角此の世は住みにくい
と書かせた事情があったのだろうと僕は想像する。
官僚から、商人へ、文を売る商人として歩き始めた漱石。
彼はスィフトなどの英文学に、イギリスに留学し打ちのめされ、しかし漢詩を書き、当時の俳諧の変革者、正岡子規
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