(批評祭参加作品)観察することば/石川和広
 
子規とも友であり、漱石という名自体、俳号である。
漢詩も数多く書いた。
彼は、留学したとき、幻聴や幻覚の症状があったという。彼は実際、異世界との触れ合いの中で、過酷な自己形成の途上にあった。
まさに、自分がミクロになった逆ガリバーとして、しかし、世間に出ていく前に
世間を形成している江戸の戯作者の感覚や、漢詩の伝統つまり、日本の世間を構成する巨大な言語体系を引っさげていた。自己の中心軸を引き裂かれ、西洋文学の、教科書で学んだものとまったく異なる英文学や風にまともに吹きつけられた。
ここで、その異類の文学の間で、自分自身の文学を、懸命にうちたてようとした時、猛烈なアイデンティティーの危機が
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