旅人への歌/HAL
 
もう何処まで来てしまったんだろう
振り返ればもう出発点は視えはしない
視界に映るのは遠い後悔か 懐かしい悲しみか
幻だったかのように過ぎ去った愛するひととの日々

振り返れば道は一本だけ
夏の眩しい光を遮ってくれた街路樹のプラタナス
石炭の匂いを含む風は彼処を想い出させながら穏やかに肌を撫で
その風に菩提樹は揺れて笑うがそれは微笑みか嘲笑いか

随分 長い旅だったような気がするのは足と靴だけ
ほんの一瞬だと教えるのは天空の星々と冬の雷鳴
もう終わりはそんなに遥か先ではないと知らせるのは鐘の音
『誰がために鐘は鳴る そは汝ながために鳴るなり』
それはジョン・ダンが詠んだ『
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