/鯉
のはそれから少し過ぎた春だった。おれは最初から知っていたのに「あれ? 誰だっけ」と思おうとしていた。忘れたことにしたかったのかもしれない。Gはダボダボのジャージを着て、ラークの5を吸っていた。ちょこんと袖から出た首や腕がおれの視線に合わせて隠れた。金髪は年に似合っていなくて、薄汚れていて、おれたちへの徴のように光っていた。おれは詰め襟のホックまで閉ざしたままで「Gじゃん」と軽々しく口にした。その夜の重みもわからないままに、すぐにでも逃げ出す準備をしながら。「久しぶり」とGは繰り返した。おれはこいつの告白を断ったのを忘れたように振る舞い続けた。空っぽになりたがった。いまなにしてるの、の一言もないまま
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