キャラメルマリア/鯉
認して、知ってる女のアドレスを何度も見るけれど、文字列を見ても頭の中の顔には霞がかかっていた。誘蛾灯と化した街頭ビジョンを横目に信号を待つ群れに取り入る、やつらには羊飼いがいない、薊の咲き誇るのに体を刺され続け、そんなことはどうでもいい、夜が来る、逃げなくてはいけない。歩数が変拍子を刻み始めた、とんたたたたとんったた、とたんたとったとととととたた。まだ扁桃腺は舌の根に張り付いている。シャツが汗ばんだ、電話が鳴った、「はいも、しもし」「なんでいきなり噛んでんの?」笑っている。誰だっけこいつ。「い、っやおれな、んかきょう調子わる、くてさ、あ、あ」「なにそれ」とかなんとか繰り返していつもの場所でと唐突に
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