キャラメルマリア/鯉
突に切り落とされた。誰だっけ。履歴を見ても文字化けしてわからない。足をもつれもつれさせながら、ようやく見つけたガードレールに腰を下ろして、背中に穴の空いた太陽が、しどろもどろに墜落してくるさまがあちこちに振れる。貧乏揺すりが止まらなくて、痰を吐こうにもたばこを吸おうにも喉がふるえたり指が一本を掠めたりする。通行人共の目は直線で交錯するのに、おれの動線だけ下手な製図工の仕事みたいだ。太陽は空洞を軸にして回転している、青より弱い赤、けれどそれが似ているのだという。……誰に?
どもる声で「キャラメルマリア」と言おうとしたらキャメルマリアになった。吸い殻の聖母。バニラのにおいと鉄錆の灰皿。夜が近づいてくる。刻々と、浜辺が満ち潮に食い尽くされるように、おれが擲たれる。手足がそれぞれどうやって動いているのかがわからなくなってきた。信号の明滅の度におれの手首が空中に浮かんでいる。まっすぐに伸びた闇がカップを切り裂いた。
ようやく思い出した女の名前を打ち込み続ける左手がどうにも他人の手にしか見えなくなって、おれの目玉が浮揚しはじめたとき、右手からキャラメルが何粒か落ちた。
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