あんな思い出のせいだろう/飯沼ふるい
 

いつも雲のかかっていた山峰の代わりに
目の前に聳えるプラント群は
その形状を超えた物性を持たずに機能し続けている

あらゆる情緒を排斥する
ヒュームと油と猛々しい機械音とにまみれて
私というものを機能させ続ける一日
そうして次第に手足は化石になっていく


 (今
  浄土平へ向かう道すがら
  荒廃した黄土の大地のそこかしこから
  耐えることなく鼻をついてきた
  嫌みたらしい硫黄は
  脱硫装置で分解されている

  新しい生活という
  触媒に曝されて
  サルファー
  そのような名の無機的な物質として
  タンクの底に沈殿している)

[次のページ]
戻る   Point(2)