春の海で眠りたい/AquArium
地勘のない場所は
世界を新鮮に錯覚させる
螺旋階段の屋上は
沈殿した夢を吹きあげる風が
在るんじゃないかと信じていたんだ
(ただただ
美化しすぎた姿が憎い
表面でさえ見えずにいた、
わたしの狭い視野が
とてつもなく歯がゆい)
4.
雨音が止んでいくのに
睫毛の先は乾かないから
西新の街は乱れて光る
湿った世界の生乾きの匂いが
新品の服を汚していく
一度開けたワインの香り
醸し出される鼻腔のはるか奥に
充満する、この酸味と渋み
同じ空気は吸えない
二度と、未開封にはできない
数分ですり減っていく靴裏
どうしたって追いつけない背中に
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