憂鬱録より “火”/kaz.
なのだ。女の表情が快楽に変わっ
ていく。それが奇妙に歪んでいる、不自然に垂れた顔面の筋肉がそれを覆い隠していく。
あたかも女のもつ羞恥心の外皮がそれを覆うように。私は激しく鞭打って破壊することも、
棘で血だらけにすることもできた、せずにいたが。薬の効き目の悪さにがっかりして、そ
うした気力も起こらなかったのだ。筋弛緩剤の作用、先に注射したものが全身を巡ったこ
とによる、部分的な筋肉の解放に過ぎない。女の表情を止めることができないのは、薬に
よって解放されるのが理性のほんの一部でしかないという、よい一例だろう。アルコール
や覚醒剤が、薬、と概括されてしまうのは、それらが解放するのが、同
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