憂鬱録より “土”/kaz.
 
風が吹いてくる。火は追い立てられたように、ばらばらに分かれて火の玉となり、老婆の回りに留まろうとして消えていく。一つ消える度、老婆の足元に影ができる。いくつもいくつも火は消え去って、老婆の足元には影が溜まっていく。最後の火が消えて、辺りは老婆の影で埋め尽くされる。闇の中、杖が地面を小突く音だけが残る。
「一人ではない」
「君は、一人かもしれない」
「いいや、君の回りには、沢山の影がある」
闇から女たちがぞろぞろ飛び出してくる。みな裸だ。女たちがチャイナドレスに掴み掛かり、奪おうとする。腕に噛み付き、乳房を鷲づかみにし、揉みくちゃになって、汗の匂いを振り撒く。
「そうか、生きているんだね」
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