憂鬱録より “土”/kaz.
ね」
「いいえ、死んでいるのよ」
老婆は答え、背後から杖を振り下ろす。血まみれの視界の中で、服が引き裂かれる音が聞こえる。
額に何か冷たいものが触れて目が覚める。女の舌が額の上を伝い、私の血を舐めているのだ。女たちは私の全身を舌で舐めてくる。愛撫というよりは、ただ機械的に、舐められるだけ。舐められても私は溶けも減りもしない。はずが、紙やすりのような女の舌が、肌を削り取っていく。髪が、乳首が、性器が傷だらけになり、そして流血する。
「血を舐めるな」
「いいえ、土ぼこりよ」
「私を舐めるな」
「いいえ、泥よ」
「死を舐めるな」
「いいえ、死んだのは私」
私たち、ではない。死んだのはただ一人、返事をしたのも、ただ一人。誰が答えたのかは知らない。
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