美香/「Y」
しまった。
彼女は「ありがとう」と嬌声を上げるように言い、ドアの内側に飛び込んできた。
「ねえ、知ってた?今夜はもの凄く寒いの」
昌の鼻先にぐっと顔を寄せて笑顔を作った後、ブーツを乱暴に脱ぎ捨てる。
「悪いけど、人違いじゃない?」
昌はようやく彼女に声を掛ける。「君のこと知らないし」
そんなことないよ、と彼女は言った。「私は、あなたのことを知っているもの。それより、ほら。これ、チョコレート!」
彼女は両手を真っ直ぐに伸ばして、赤い紙に包まれた小箱を昌に差し出す。
自身の行動に呆れながらも、昌は女からのプレゼントを受け取ってしまった。
「ねえ。本当に憶えてない?就活のと
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