黒い海/真山義一郎
 
し、海辺では母が
より玩具じみた弟を
海に浸からせて
私の不安の振り子は
遊ばせていてあやふやなまま
揺れているのだった

そのうちに
ぽかり ぽかり
父や兄ちゃんたちの笑顔が
黒い海に浮かんだ


ずっと後になって
兄ちゃんの命は
我々、家族の掌から
零れ落ちていった

一滴の死は
大きく大きく波紋を広げる

死んではいけない
誰も
この世界で役割を終えるまでは

というのは
ちっぽけな人間の
儚く幼稚な
願いなのだろうか

波に呑まれかけて
そんなこと言えた
義理ではないことは
重々わかってはいるが


歯を噛みしめて

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