眠らない街の眠らない人々/ブライアン
満する。酸っぱい鼻につく匂いだった。
その光景を見ていた乗客はみな嫌な顔をしたが、声を出す者はいなかった。一人だけ椅子から立ち上がり、隣の車両へ移った。それ以外の人は何事もなかったかのような顔で目をつむった。吐いた男は次の駅で降りた。嘔吐物だけは残された。
気が付くと隣に座っていた男はいつの間にかいなかった。寝ていたわけではない。ずっと嘔吐物を見ていた。友人の結婚式の二次会で女の子に吐いたことを思い出していた。散々なことを言われた。でも何も覚えてはいない。きっととてもきれいな女の子だったに違いない。彼女は、知りもしない男の嘔吐にまみれて、怒りをあらわにすることしかできなかった。取り残
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