眠らない街の眠らない人々/ブライアン
 
放り出されていた。ほとんど会話の声は聞こえない。駅で降りた乗客たちの声のほうがよく聞こえる。改札を抜ける声。待ち合わせていた人が出迎えてくれる声。一人で黙々と家路に帰る足音。電車はガタンゴトンと音を立てている。アルコールの匂いも変わらない。けれどもう騒々しくはなかった。

 閉まりかけの扉をこじ開けるようにして一人の男が電車に乗ってきた。男は空いた電車の中を見回すと、すぐ近くの椅子に腰かけた。電車が走り出す。男はおもむろに立ち上がった。起きていた乗客のすべてが彼のほうに目を向ける。男は扉の隅にしゃがみこみ、嗚咽を出した。電車の床には白い嘔吐物がある。男はなおも吐いた。アルコールのにおいが充満す
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