眠らない街の眠らない人々/ブライアン
 
扉が閉まり走り出した。話をしている人はわずかだった。車内の蛍光灯がまぶしく光っていた。椅子に座った人のほとんどが眠りに落ちていた。さっきまで目の前に立っていた男はもういなかった。さっきの駅で降りたのだろう。彼は携帯電話をカバンに入れて、颯爽と改札を抜けたに違いない。結婚なんてなんでするの、と尋ねる。彼の友人は困ったように奥さんになった人に視線を合わせる。彼は無邪気そのものだ。友人は奥さんの顔を見てもっと困ってしまうだろう。彼女もまた彼の友人にその答えを求めていた。だが、望んでいる意味は彼とは違うものだ。なんて答えるべきだろう。
 隣に座った男の鼾が強くなる。さっきまで折りたためられていた足も放り
[次のページ]
戻る   Point(1)