恒常の異物/salco
 
られる事だとしたら、プライドではなく、作家は作品を世に出した後で先ず、己が存在理由に妥協を強いな
ければならないのだろう。何故なら下衆の神経に取捨選択され、汚穢で読み回され曲解される、これが「珠玉」「渾身」作の行方であり、存在
意義なのだ。文学者の執筆動機と充足は必ずしも反映しない。
 サリンジャーが潜伏した理由はこれではないか。以後は「私家版」として書き続けていたというのは、酷評を倦んだ単なる厭世ではなく、己
が凝視の奥行きと大衆との乖離、著作物が下俗の玩弄物に堕ちるのを厭うた「忌避」ではなかったか。それは自尊心というより、美意識の癇性
だろう。潔癖という「神経」の温存法だ。

 
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