夜行/HAL
 
かった
でも確かに宛先はぼくの名前と住所だった

念入りに朱色のスタンプで
親展とまで捺されていた灰色の封筒

空腹も喉の渇きも憶えなかった
帰ろうなどとも想わなかった

ただ通過する列車の巻き上げる風だけが
とても冷たく切符を握った手はかじかんでいた

もうすぐ日付が変わろうとする頃に
オレンジ色の二つのライトを点けて

速度を落とした列車が入ってきた
そして自動ドアは音を発てて開いた

ぼくはなかに乗り込んだ
すぐに案内もなくドアは閉まった

でもそのなかにいた乗客は久しぶりの顔ばかり
言葉はないけど見知った微笑みや会釈を交わす

どのひとも柔和
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