夜行/HAL
かった
でも確かに宛先はぼくの名前と住所だった
念入りに朱色のスタンプで
親展とまで捺されていた灰色の封筒
空腹も喉の渇きも憶えなかった
帰ろうなどとも想わなかった
ただ通過する列車の巻き上げる風だけが
とても冷たく切符を握った手はかじかんでいた
もうすぐ日付が変わろうとする頃に
オレンジ色の二つのライトを点けて
速度を落とした列車が入ってきた
そして自動ドアは音を発てて開いた
ぼくはなかに乗り込んだ
すぐに案内もなくドアは閉まった
でもそのなかにいた乗客は久しぶりの顔ばかり
言葉はないけど見知った微笑みや会釈を交わす
どのひとも柔和
[次のページ]
戻る 編 削 Point(9)