SAD BAR/HAL
にあいつの顔は見えない
あれほど酒の好きだった男の顔は見えない
僕はそれで満足だろうと
ラークに火を点け心底想う
いつかバータンダーが
死神に変わることを知っていたはずだから
僕がいま吸っている煙の向うに
死神が笑んでいるのを知っているように
僕は椅子を引き立ち上がり
馴染みの客に別れの会釈をする
じゃあ と僕はマスターに眼で挨拶をする
奴はアルコールを飲んだんじゃない
アルコールに飲まれたんだ 奴は敗れたんだ
他の客に聞こえない微かなマスターの声を聞く
シングス・バーリンのエンディング曲である
季節外れのホワイト・クリスマスに送られながら
僕は
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