SAD BAR/HAL
 
僕は暖かい巣から飛び立つ鳥のような気分で扉を開ける

外は寒風に吹かれ
素っ気のない今年初めての粉雪がそれぞれに
行き場を失ったかのように風まかせに吹き荒ぶ

お前は寒かったんだろうね
此の世界も此の国も此の長い付き合いだった僕ですら
お前を温めるものではなかったんだろうね

他人の破滅にも苦いものがあるんだなと
僕は黒い背広の襟を立て
誰も待ってはいない部屋に帰ろうと急ぐ

どれだけ心の扉を閉めても
どこからか隙間風が入ってくるんだなと感じつつ 

お前は信じなかったかも知れないが
お前には伝え損ねたかも知れないが

お前は独りじゃなかったんだ
お前は独りじゃなかったんだ

と手遅れの言葉を心の中で呟きながら
待つもののいない家路へ向うためのタクシーを拾おうと手を挙げる
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