SAD BAR/HAL
 
沢の奥深くの
小さな清流を想い起こさせる
岩魚が泳いでいるのさえ見える

そんな幻覚を見ている内に
僕の前には素っ気のないボトルと
コースターの上に露をかいたオン・ザ・ロックが置かれている

ボトルを見ると丁度指一本分減っている
24杯飲めばニューボトルが何も云わず卸される
グラスを取りいつものざらつく安物の味が喉を通る

でも氷代をこの店は取らない
チェイサーは大層なデキャンタに入れた水道水だ
お通しだけなら300円でしかもツケで帰れる

マスターは入ってきた顔色ひとつで
話しかけていいかいけないかを一瞬で見抜く
プロの眼だ 多くの人間の裏を見てきたプロの眼だ
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