SAD BAR/HAL
まだ6時前だが
僕はカウンターのいちばん手前の椅子を引く
マスターが早かったね と言いながら
僕のアーリー・タイムスのボトルを出してくれ
磨かれたオン・ザ・ロック用のグラスがひとつカウンターに置かれる
僕はマスターが氷を砕く音を聴きながら
ストレート・ノー・チェイサーと言い
チェイサーの代わりにオレンジ・ジュースにしていたのは
誰だっけと考えセロニアス・モンクだったと気がつく
でもいまラークに火を点け深々と吸い込むながら
耳は適度な音量で流れている
ジム・ホールのアランフェス協奏曲を聴いている
その透み切ったテクニックを抑えた弦を滑る音は
どこか遠くの沢の
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