/鯉
かった。
道はなおも続いている。蛍光灯のほほろぐのはますます激しさを増した。さっき見えた暗がりがここだったのだろう。
わたしはこの道の脇に、ひとつも扉がないのを見ていた。こちらにもやはり絵画を掛けたりするような有機性といったものは皆無で、ひたすらに粗悪な打ちっ放しコンクリートの所々に開いた穴ぐらいが、せいぜい人工物らしい余韻を放っていた。その向こう側からは誰も覗いていないし、どこからか垂れた水滴が苦し紛れに留まっているのが見えるくらいだった。
「そういえば」
と言ったきり、わたしは口を噤んだ。なぜか聞いてしまったら足を止めなければならないような気がした。由美子はわたしが黙っても足を止
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