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ないと思うよ」
「きらいなんだってば。きらいすぎて、なにも言わないんだよ。コウタくんはみんながきらいなんだよ」
「……わからない」
 それきりだった。わたしはまた歩く早さを元に戻した。
 ウェディングドレスはところどころ土に塗れていて、煤けた白に茶が混じっていよいよ悲惨だった。由美子はずっと「きらいなんだ」と呟き続けながら、床に目を落として、それでも歩き続けている。
 しかし、かの女がコウタくんと呼んでいる男のことを、そもそもわたしは知らなかった。由美子のことは昔からよく知っていたけれど、この長い路地を歩き続けるほどに思い慕った男のことなど、由美子はずっと、露ほどもわたしに感じさせなかっ
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