ウブゴヱ/望月 ゆき
 
しまった、

 わたしのなかに、潮が満ちてくる。だがそれよりも以前に、わたしはただの、気配であった。
 形あるものが、輪郭だけを残し、ひとつの時代の、遺書になっていく。視界にひろがる、すべての絵空事をつたえる言葉を、誰も持たない。

 失われてしまった、友との諍(いさか)いと、
 かけがいのない、あの倦怠。
 日常は それぞれに、健やかであった。

 夜が、規則正しくおとずれて、
 白昼、湿り気を帯びたわたしの、質量を深い、深い、空の底で、しずかに埋葬しようとするので、わたしは
 足もとで風化していくわたしの、骨を、拾い集めることにいそがしい。

 歌は、ひとの中に在り、
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