疲労薬/「Y」
 
は月に二度ほど、閉店間際に店を訪れ、疲労薬を買っていった。
 黒い服を細身の身体にまとい、どことなく陰鬱な雰囲気を漂わせていたが、容姿そのものは美しかった。
 彼女は疲労薬を買ったあと、きまって、店内で十分ほど休んでいった。店員と客の立場で言葉を交わすようになったのも、ごく自然な成り行きだった。
「失礼ですが、疲労薬はお客様が飲まれるのですか」
 ある日私は思い切って彼女に訊いてみた。
 彼女はいつも疲れたような顔をしていて、疲労薬を必要としているようには見えなかったからだ。
「わたしはこんなものは飲まないわ」
 彼女は即座に答えた。「これはわたしじゃなく、主人に飲ませるの。こっそり
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