疲労薬/「Y」
働いていたことがあった。
その店で扱っていた「疲労薬」という名の薬を、私は印象深く憶えている。
いまでは、疲労薬を扱う薬局はどこにも見当たらないし、インターネットで検索しても何も出てこない。
疲労薬がこの世から消えた理由は、需要が無いからだ、ということになるのだろう。しかし、すくなくとも当時は、疲労薬は売れない薬ではなかった。
高木は虎月堂という名称のその薬局の経営者で、小太りで愛想の良い老紳士だった。
ピンク色の肌は常に光沢を備えていて、唇は紅を差したような赤色をしていた。
その容姿は周囲の者に健康的な印象を与えていたと思う。だが、あまりに健康的すぎる人が、逆に不健康
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