疲労薬/「Y」
「疲れる薬だと言うと変に思うかもしれませんが、これは正真正銘の医薬品です」
あのとき、高木はそう言った。
「疲労薬」と印刷された赤唐紙が、半透明の茶色い瓶に貼り付けられている。私は彼の説明を聞きながら、瓶の中に入っている褐色の小さな丸薬を見つめていた。
「仕事のしすぎなどで疲れを感じない体質になってしまう人がいるのです。疲れ知らずというと聞こえは良いのですが、これは衰弱の一形態なのです。放っておくと、自分が疲れている、ということにすら気付かないまま、いつの間にか死んでいたということになりかねません。これは、そうした症状を治す薬なのです」
昭和末期のバブル時代に、漢方薬局で店員として働い
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