八柱腰折れ屋敷十字舎房/一番絞り
 
がおおらかに広がり、そこは未来永劫、
囚人以外が立ち入ることは許されぬ異界であった。
平和と安息の風景がそこにはあった。
ときどき野ネズミが優美な野良猫に襲われる思いがけないドラマを除いては─。

ある日、Kの独房の重い扉が開かれ、入り口に拳銃を携帯した屈強な体躯の看守とカメラを抱えた灰色の背広姿の年老いた男が立っていた。
ここでは獄房を出る理由を聞くこともできないし、聞かされることもなかった。
天窓から娑婆の陽ざしがふりそそぐのを嬉しいような眩しいような思いで眺めながら、
Kは凍てついた廊下にふりそそぐ光の洪水のなかをこつこつ歩いて外に出た。
思いがけず頬がゆるんだ。もうすでに
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