彼女の海/ゆえ
いのだ。
今まで何度も、言ってしまえばここに来るたびに、彼女はこうして黙ったまま波打ち際を歩き回った。
さく、さく、さく
彼女が砂浜を踏みしめる音と、僕の呼吸が交差する。
僕は深呼吸を繰り返す、僕は深呼吸を繰り返す。
取り留めの無い歩みをやめることなく。
彼女は、埋没している。
そこには今、彼女一人だけが存在している。
彼女はただひたすら繰り返し、繰り返し、彼女の世界を歩き続ける。
彼女の中に僕は居ない。
僕は存在していない。
前にも、後ろにも、―――もちろん隣にも。
何百回目かの深呼吸をする。
僕は彼女
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