七坂心中/paean
 
った。
 マンションのドアの開く音がした。
 おかえりなさい、セイジさん。
 わたしは、わたしを庇護する正常人に向かってほほえむ。正常人の稼ぎで買って貰ったエプロンを掛けなおす。ライターをエプロンのポケットに隠した。十回に一回だった点火率は、五回に一回というところまで上がっていた。お風呂上がりを待ちながら、正常人の稼ぎでこしらえたキノコのシチューと正常人の稼ぎで擂りあげた胡麻和えの小鉢とその他いろいろの食事を配膳する。おいしそうだね、と正常人がすてきに笑う。
 その正常人だって、そのうちわたしたちとおなじ場所へやってくる。焼却を待つ人々の列へ連なる。
 彼はゴムをしなくなった。ゴミの自覚
[次のページ]
戻る   Point(0)