ビリジアン/水町綜助
鹿も牝鹿を愛した
ある朝牡鹿は
ちょうど今のような夏が終わるころ
ひとつの朝に
森を抜け
まだ明けきらない夜を走って
草原の始まるところで足を停めた
まさに太陽に照らされるだろう西の空を
息せいたまま見つめて
牝鹿と出会ったこの夏で言えば
きっと最後のものになるだろう積乱雲が
その希望にもにた
輪郭の最も膨らんだ場所を
季節が混ざる曖昧さと繊細を溶かしこんだ
オレンジ色が淡く彩るのを
目にした
牡鹿はかつてないほどの喜びと
理由のない衝動にとらわれ
身をこごらせながら
その輝きを見つめ続けた
すべてのすがたは
このように
ないまぜとして
美しく汚らしく
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