上がり框にて/A道化
 




赤い傘を、どうしても、心持ち高く掲げました
救われない愛らしさが骨を伝い腕を伝い無意味に流れてしまい
雨景色を溺れ終えた傘と掌が打ち上げられた上がり框にて
ああ、と言ったらそれはすでに泣き声でした
上がり框はいかがかしらん、と
わたし誰かにおどけて欲しかったのかも知れません


息を吐いて縮んだら、知らないうちに息を吸って膨らみました
横たえた右膝に右の頬が柔らかに横たわってからというもの
酷い生き過ぎの為になんだか死にそうで
ああ、と言ったらそれはまだ泣き声でした
あら大人なのにお靴も脱げないの、と
わたし誰かになぶって欲しかったのかも知れません

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