上がり框にて/A道化
玄関の壁に掛かる時計の振り子よりも遅いわたしの息が
白く、時計よりも効率よく、消してくれた視界
その、わたしの肢体が横たわっているあたりから
ああ、と聞こえたそれはなぜか泣き声でした
さあ赤い傘を高く掲げたりしたのはなぜでしょう、と
わたしに尋ねられてもそんなの、わたしはもう知りません
ただ、
足元に横たわった傘が先に亡くなったこと
それが何のヒントにもならずむしろわたし達の失敗の成れの果てであること
嗚呼、この上がり框にて
わたしはなぜか自然にそれを知っていて
その代わり誰も自然にそれを知りません
2003.11.4.
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