きつね 二題/オイタル
のです
低い空を巨大な雲の影が広がると
かねて用意の
油を塗った唐傘をさして歩きます
雨は細かく堅い音を立てますが
通り雨ですから
それはそこそこ 激しい降りでも
泥はねもさほどでなく
すると やがて
傘にたまった雨だれが
骨の先からぽたりぽたりと
落ちたと見る間
そのひとつぶずつが
ぽおっ ぽおっと
青白く
燃え上がりはじめるのです
きつねだ
アカマきつねです
放り出された唐傘の
くるりと回った
雨の溜まりのその上
激しい雨脚の飛沫の隙間に
白い耳
白い耳が ふたつ
ゆらゆら
【トッカさん】
二股に分かれた幹の間から
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