きつね 二題/オイタル
 

 夏は深く
 雲の谷間をのぞかせる

雲のふもとの
小高い丘の上に
古寺があって
その土手のぽかり口を開けた横穴に
白くて細いきつねが二匹
すんでいたそうです

 無数の蝉の唸りを孕み
 木の葉は翳る
 光の間を水が滑っていく

「トッカさん」と言って
そのあたりの人はそう呼んでいて
時折 近所の肥え塚にも
餌を漁りに来ては
食べ残しを捨てに行く家人と
ぱったりであったりして
目が合うと
しばらくは良い姿勢でじっと
こちらを見ているんですが
やがて
す す と
草陰に姿を
かくしてしまったり
していたそうです

ある日 消防団の若い衆
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