ぽっぷこおん/リンネ
 
と気持ちのよい香りが漂ってくるのはどうやらその女の香水のせいで、それが劇場をだんだんと酔わせている。
 ふいにさまざまな匂いが動き出すのに気付いた時には、すでに座席のほとんどが観客で満たされている。古びた座席シートの匂い、定番の香水が何種か、制汗スプレー、消臭しきれない体臭、洗剤で清潔になった老人の、匂い、そしてポップコーンのバター。もうまもなく映画が始まる、そんな雰囲気に満ちて観客たちは無口だった。真っ暗な天井に色とりどりの電光が輝いている。首をのばし、スクリーンを見つめる観客はみんな蝸牛だ。棒状に突き出した不安定な目。その怪しい尖がった目玉から、夜のヴェールに包まれて消えていく、弱い星屑の光
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