しおまち/亜樹
 
薬草の黄色い臭いが家に満ちていたように思う。
 けれど余之介がその村に居たのは七つになるまでだった。
 余之介には兄が一人、姉が二人、妹と弟が三人ばかりいた。十も年上の兄は余之介が家に居た時分から跡取りとして盛んに父の仕事を手伝っていたし、余之介自身も特にその家の跡を継ぎたいと思ったことは無い。そのため実家によく大黄の買い付けに来ていた薬師が、跡取りに養子が欲しいと余之介を指名してきたときも、大した抵抗も無かった。
 それから十数年、余之介は養父に薬の調合や効果について学びながら、小間使いめいた仕事の手伝いをして暮らしている。数ヶ月前に養父の姪を嫁に貰い、名実ともに余之介は山奥の小さな薬屋の
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