しおまち/亜樹
屋の跡取り息子となった。
余之介の人生は、一生この薬香臭さを身に纏うことに決まったのだ。
背負った行李が肩に食い込む。この海辺の村は目的地までの通過点でしかなく、その上今まで歩いた道のりはその目的地までの距離の半分にも満たない。
額から垂れた汗がからからに乾いた地面へ落ちる。
わずかなそれは微かに土の色を変えた後、あっさりと蒸発した。
:::::
初夏の気配が色濃くなった先日、余之介は養父に呼ばれた。
養父は丸顔の好々爺で、白いものの交じり始めた頭を丸めるでなく、結うでなく、半端な長さのまま垂らしている。余之介はこの自分より頭一つ分背の小さいこの男が、声を荒
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)