踊り子トマト/魚屋スイソ
 
ものを口にしてはいけないことと。浴室のドアを開け、シャワーカーテンを退ける。両手足に枷を嵌め、首輪から鎖を垂らしたトマトまみれの女が仰向けになっておれを睨んでいる。黒髪の張り付いた頬を強張らせ、爛れたように赤い口元と胸とを震わせている。おれは昨日トマトと一緒に置いておいた食べかけのジャムトーストが見当たらないことに気がついた。女に問い詰めると、食い縛っていた歯を鳴らして何か呻くように二言三言短い声を発したが、慌てて口を閉じた後はそれ以上の挙動を見せようとしない。メンソールの煙に混じって、鬱屈した思春期のような酸っぱいにおいが鼻をかすめた。おれは袋の中のトマトを一つ掴み、首輪の鎖を引いて突き出てきた
[次のページ]
戻る   Point(9)