踊り子トマト/魚屋スイソ
は雨らしい。時計がないためこの薄暗さが朝なのか夜なのかはっきりとは判断できないが、眠りにつく前よりいくらかは明るい。ベッドの下に落ちている煙草の箱に手を伸ばす。部屋のものすべての輪郭が消えかかっている。テーブルの横には女の服と下着とが丸めて置いてある。いったい何日が過ぎたのだろうか。上体を起こし煙草に火をつける。おれはこのワンルームの浴室で、女を飼っている。
向こうもこちらが起きた気配に気がついたのだろう。浴槽に鎖を打ち付ける音がいよいようるさくなる。冷蔵庫の前まで歩き、中の袋を手に取る。おれは女を飼う際に二つだけ命令を与えていた。決して声を出してはいけないことと、おれが与えるトマト以外のもの
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