エッセイ・月と火星が出会う夜/岡村明子
 
「月と火星が何万年かぶりにデートしてる夜に
そんな話するの、やめようや」

都心から一時間半
駅前にコンビニは一軒
周りは畑というこの駅にも
タクシー乗り場があるのだが
終電まではほとんど乗る人もいない
運転手たちは車を降りて
煙草をふかしながらたわいもない話を
日がな一日しているのだ
そんなとき
聞こえたこの言葉

何の会話の脈絡だったのか知る由もないが
おそらく夫婦の話ではないか
昨日ちょっとしたことでいさかいになって
離婚だ、裁判だ、と物騒な話を同僚に
少々大げさな自己弁護もまじえてしていたのではないか

聞いていた同僚はなだめるつもりで
しゃれたこ
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