エッセイ・月と火星が出会う夜/岡村明子
たことを言ったものだ
月と火星の接近がデートだなんて
陳腐な見立てかもしれない
だが
実際には光の単位を使わねばならぬほど
遠く離れた二つの星が
地球からは寄りそうように見える
案外男女の心なんてそんなものかもしれないじゃないか
そういえば今日は空を見上げて歩く人が多い
想像もつかないほど遠く離れたところにある現象でも
見えるということほど確かなことはない
人間があちこちで同じ空を眺めて
いろんなことを考えて
離婚さえやめてしまうかもしれない
そう思ったら
何万年か昔の人が
同じ月と火星を見てかわした言葉が
無性に知りたくなった
駅からの帰り道
さっきの言葉を反芻するうちに
くるりと踵をかえしてコンビニへ向かった
ワインを買うために
何万年ぶりかの邂逅を祝して
ささやかながら
乾杯するために
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