夜ノ目/かいぶつ
 
車窓のない列車は
「夜目」という名の駅に向かい
走行していた

乗客は皆、無口だった
そして窓外の景色でも見るかのように
ただ壁の方に視線を向けていた

車窓のない列車というものは実に奇妙だ
まるで方向感覚が定まらない
時折、車体が斜めになったり
周囲の音でトンネルに入ったことなどは分かるが
自分が前進しているのか後進しているのかが分からぬ不安に
すこし気が変になりそうになる

私は手帳に挟めてあったペンで
壁に矢印を書いた



後部座席を指し示すように
自分だけが目にすることの出来る最小限の大きさで

それをじっと見つめると
幾分、気持ちが落ち
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