性交/天野茂典
顔の紫が陽に当たっている。ぼくは君のちいさな顔が好きだ。うりざね顔というのだろうか。美人は人を惹きつける。心理学的にも
善人に見られ、いいことに恵まれ、好まれる。人として不条理だが、人間社会のみならず、哺乳類全般に言えることではないのだろうか。ぼくは君の髪の毛の中で眠る魚である。気持ちがいい。湯のなかに浸かっているようだ。君の髪の毛はみどりの浴槽いっぱいにひろがり、ビアズレーのように磨かれてくる。奴隷のようにライオンの餌にするのにはもったいない。たてがみのように風にそよいで、君は顔を振った。チエック。なんのサインなんだろう。分からない。君は髪を振りかざす。君は髪を浴槽に振り乱す。くもの巣のように
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