夜明け/天野茂典
 
だ。『桜の木下の満開の花』で貴族の首狩で華やかに優雅な遊びをたきつけたのは坂口安吾だ。若い草むらに猫の死骸は風化しつつある。春の風が心地よい。思わずぼくは、写真家の弟に電話してしまった。そっけない返事が返ってきた。ボードレールも腐乱した猫の詩人ではなかったか。パリという街区の、言葉の死臭収集家。腐触画の美学を覚える。



ジョン万次郎。漂う漁師。足摺岬から漁に出て、そのまま帰らなかった。アメリカの船に助けられ、そのまま本国を離れたのだった。太平洋の中のちいさな蟻。万次郎は世界を知らない。『白鯨』のエイハブ船長も太平洋沖で水を補給したいと願いエドを狙うが,日本は鎖国でままならず見限った経緯
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